香港から1通のEメール(1)

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ホテルの部屋でMがエスプレッソを飲みながらメールをチェックしていると1通の英文メールが。

差出人はある中国人。日本人でも聞いた事がある程の会社の女性マネージャーだ。
どうやらMの友人である香港風水界の重鎮L先生の紹介のようだ。

今回は企業絡みではなく東京に残してきた息子(離婚した日本人前夫との子で日本国籍)が心配で様子をみてほしいとの事。その息子とは18年も会っていないようだ。
突然息子の前に現れるような事をして迷惑は掛けたくないし、彼女自身中国本土やヨーロッパを飛び回っているので日本にいられる時間も限られている。

例え友人の紹介でも会った事もない依頼者の依頼は受けられない。
彼女は秘書ではなく彼女自身の電話番号を書いてきたので本人に電話をして早速ビデオチャットの準備に取り掛かる。

ある程度以上の地位にある人の中には時間の都合や日常的に身の回りの事は秘書が行っている関係上、秘書の連絡先を教えてくる(または秘書からの接触)人が多いが、Mは相手が誰であれ、スケジュール調整等を除き、直接連絡を取ろうとしない依頼者の依頼は受けないのだ。もちろん、アポイントのマネージング等、依頼に直接関係のないことは秘書さんにその職務を全うしていただいて構わない。

デリケートかつ人生に関わる大きな事案を扱うのに伝言ゲームをやっているのでは時間も無駄であり、ニュアンスや真意が伝わらない場合もあり、また、お互いの本質を見極めらず最善の結果を得られるチャンスを逃すことにもなりかねないのだ。

その時ビデオチャットが彼女と繋がり、モニターには実年齢よりはるかに若く見える見るからにやり手風の女性の顔が映し出された。

画面に現れた相談者ルー氏(仮名)は大企業首脳陣が持つある種共通した雰囲気を醸し出していた。

ルー氏は神妙な面持ちで挨拶を済ませるとアジア人によくある訛りを全く感じさせない流暢な英語でこう切り出した。

「調査方法・費用等は全てお任せしますのでとにかく息子の現状をお調べいただけませんか。養父母と仲良くやれているか、大学にちゃんと通っているか、元気に生活できているかなどが解ればそれでいいんです」

とにかく元気でやっていることを知って安心したいという。

なるほど、もっともな相談だ。

ただし、Mの目はそれ以外のことも見抜いていたのだ。

「ルーさん、まだ他にしたい事があるでしょう?」

しばらく考えた後、彼女は口を開いた。

「実は息子と一度会って話をしたいと考えています」

たとえビデオ会議だろうとMはその目の奥にある真実を見逃しはしない。

<続く>

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